要求収益率(期待リターン)という言葉を聞いたことはありますか?
聞いたことがなくても投資をしているなら意識したことはあるはずです。
そして要求収益率は現在の理論価格を推定するためにも使えるため、大変重要な概念なのです。
要求収益率(期待リターン)とは
要求収益率とは、その名の通り投資家が投資先に期待するリターンです。
例えばあなたが株や仮想通貨といった金融資産を100円で買ったときに、これが1年後には120円くらいになっていればいいな~なんて思っていたら、要求収益率は年率20%となります。
こんな感じのめちゃくちゃふわふわした概念です。
この説明は投資家から見た視点です。
では投資される側から見た場合はどうなるのでしょうか。
例えば要求収益率が6%の場合、投資家は自分の投資金額に対して年間6%のリターンを期待するわけです。
そこで6%を下回って4%だったりすると、投資家の期待を裏切っている事になりますから、これは価値を破壊していると見なされるわけです。
要求収益率(期待リターン)は変わる
要求収益率が変わるのは具体的には下の3つのような状況です。
要求収益率が変わる場合
- 人によって違う
- 投資する資産のリスクによって違う
- リスクフリーレートで変わる
これらについてさらに詳しく解説します。
人によって違う
将来に対する見通しは人によって違うわけですから、それによってリターンへの期待、つまり要求収益率も変わります。
例えばあなたが電気自動車がこれからも伸びると思っていれば電気自動車を作っているテスラに対する要求収益率は高くなるでしょう。
しかし、そういう人ばかりではなく、普及は無理でしょと思っている人もいるでしょうから、そういう人は低くなります。
投資する資産のリスクによって違う
リスクが高ければ要求収益率も高くなりますし、リスクが低ければ要求収益率は低くなります。
まずはわかりやすく身近な例で例えてみます。
例えば、あなたが親や親友に1年後に返すから100万円貸してほしいと言われたとします。
親や親友ですと身元もどんな人間性なのかもわかっているし、多分返してくれるだろうと思えます。これはつまりリスクも低いと言えます。
そのため、利子なんかも1%でいいよってなるでしょう。
しかし仮に私があなたにお金を貸してといった場合はどうでしょうか?
こんなよくわからないブログを更新しているやつなんて信用できないしきちんと返ってくるという保証もない、と思うのが普通でしょう。
これはつまりリスクが高い事を意味します。
100万も貸したくない、というのが本音でしょうけども、どうしても貸さないといけない場合はどうしますか?
例えば利子を年率100%、つまり1年度には200万にして返すといえば一考の余地はあるかもしれません。
これらの違いはリスクです。つまり、リスクが高いほど高いリターンを、リスクが低いほど低いリターンを要求するのは当然でしょう。
ハイリスク・ハイリターン、ローリスク・ローリターンなんて言ったりもしますよね。
では現実の投資ですとどうなるでしょうか。
例えば仮想通貨市場だったら今でも年間20%くらいのリターンが得られると思う人は多いでしょう。
ただ、銀行預金で同じくらいのリターンが得られると思う人はまあいないでしょうね。
仮想通貨のリスクは高いので、その分高いリターンを求めますし、逆に銀行預金はほとんどリスクがありませんから、それに釣り合う低いリターンとなります。
リスクフリーレートで変わる
要求収益率というのはリスクフリーレートに対して相対的に決まっているという面もあります。
世の中にはリスクフリーレートなるものがあります。要するにリスクがなくても儲けられるものですね。
例えば日本だと10年物の国債の利回りをリスクフリーレートと見なす事が多いです。日本が潰れる事なんてまあ無いとみなせますからね。
そしてこのリスクフリーレートが要求収益率の基準になります。
だってリスクなしで儲かるなら、わざわざリスク取るならもっと儲けたいじゃないですか。
そのため、リスクフリーレートが変わると要求収益率も変わります。
例えば、リスクなしで1%稼げるなら、仮想通貨だと20%くらいかな、なんて考えます。
しかし、このリスクフリーレートが上がり、例えば10%になったとします。
すると、リスクなしで10%稼げるわけですから、仮想通貨だと29%くらいかなと考えるわけです。
ちなみにこの29%はどこから出てきたかというと、リスクフリーレートが1%の時に仮想通貨の要求収益率は20%という所です。
この20%を分解すると、リスクフリーレートで1%、仮想通貨に対しては19%の収益率を期待している事を表します。
という事は逆算して、リスクフリーレートが10%になると、要求収益率は29%=10%+19%となります。
計算式で表すと以下のような感じですね。
\[
要求収益率=リスクフリーレート+投資先固有の要求収益率
\]
要求収益率(期待リターン)はどうやって計算されるのか
要求収益率は人によって変わると書きましたが、そうなると何種類も出てくるため、使い道がありません。
そこで、市場の要求収益率という事を考えます。
簡単に言うと投資家全員の要求収益率の平均をとるイメージで、コンセンサスと言ったりします。
ただ、投資家全員に要求収益率を聞いて、その平均をとるというのも現実出来ではありません。
そこで、実務的にはこれくらいだろうと決めてしまいます。
ではどうやって決めるのかというと、ヒストリカルデータ方式・ビルディングブロック方式・シナリオアプローチ方式、そして適当に決めるという4つが主な方法です。
ヒストリカルデータ方式
最も簡単な方法です。どういうものかというと、過去の平均リターンを調べ、それと同程度のリターンを投資家が期待すると仮定する方法です。
例えば、アメリカ株は過去のリターンの年率平均が7%くらいだそうです。
これまでずーっと平均して7%程度のリターンが得られていたのであれば、今後も7%くらいのリターンを期待すると仮定し、要求収益率は7%程度とするのがヒストリカルデータ方式です。
ただし、これにも弱点があります。
そもそもですが、要求収益率は必ずプラスになるはずです。なぜなら、要求収益率がマイナスであればそれは損をするとわかっていながら投資する事になるからです。
そんなもの好きはまあいませんよね。
ところが、過去の平均リターンは期間の取り方によってはマイナスになる事もあるのです。
特に日本株なんて、バブルの時の株価を未だに超えていません。
アメリカのように、ほぼ一貫して株価が上昇しているならともかく、日本のような横ばいの市場に対して果たして過去のリターンから将来の要求収益率を仮定できるのかという疑問はあります。
ビルディングブロック方式
リスクに対してリターンが獲得されるため、投資する資産をリスクで分解し、リスクに対するリターンを積み上げていくような方法です。
ただし、リスクに対してどれだけのリターンが得られるかというのは普通過去のデータから算出するため、そういう意味ではヒストリカルデータ形式とも少し似ています。
ちなみにリスクに対するリターンは一般的にリスクプレミアムと言います。
ちなみにCAPMやFama-Frenchの3ファクターモデルなんかはリスクプレミアムを推計できます。
話がそれましたが、例えば株式のリターンを考えます。
大型株の場合はリスクフリーレートと株式リスクプレミアムの合計が期待リターンといえます。
仮にリスクフリーレートが1%で、株式リスクプレミアムが6%の場合、大型株の要求収益率は7%となります。
一方で小型株の場合、小型株は大型株よりもリスクが高いため、小型株プレミアムも上乗せされます。
小型株プレミアムが2%だとすると、小型株の要求収益率は9%と計算されます。
シナリオアプローチ方式
シナリオアプローチ方式は将来のリターンをいくつかのシナリオに分け、その期待値を取るという方法です。
ヒストリカルデータ方式や、ビルディングブロック方式は基本的に過去のリターンから要求収益率を算出します。
しかしシナリオアプローチ方式では未来の予想も入れるため、前述の2つとは少し毛色が違います。
ものすごく簡単に説明すると、以下のように好景気、普通、不景気、のようにシナリオを分け、それぞれの発生確率と投資する資産への期待リターンを仮定します。
そしてこの期待値を計算するのです。
好景気 | 普通 | 不景気 | |
株式の期待リターン | 10% | 8% | 5% |
発生確率 | 30% | 40% | 30% |
ちなみに上記の場合、株式の要求収益率は7.7%(=10%×0.3+8%×0.4+5%×0.3)となります。
適当に決める方式
結局要求収益率なんて理屈をこねてもよくわからないんですよね。わからないものを考えてもしょうがないので、それっぽい値を使うというのがこの方法です。
この方法はバリュエーションをする時にはよく使います。
ちなみに日本株の場合、ゼロ金利の今の環境ですと6.5%を使う事が多い気がします。
要求収益率(期待リターン)は投資するにあたりどう使えるのか
要求収益率は理論価格の推定、つまりバリュエーションに使えます。
金融の基本的な考え方として、将来の価値を割り引くというものがあります。
まさにこの割り引く時の割引率が要求収益率なのです。
式にすれば以下のような感じです。
\[
理論価格 = \frac{将来の価値}{{1+要求収益率}}
\]
ちなみに仮想通貨市場のボラティリティが高い理由の1つに要求収益率がふわふわしているからというのも私はあると思います。
もちろん、仮想通貨の将来の価値も考えるのは難しいですが、同時に要求収益率もはっきりしないため、価格がものすごく動くのでしょう。
要求収益率(期待リターン)のまとめ
①要求収益率(期待リターン)は投資家が投資先の資産に期待するリターン
②要求収益率(期待リターン)は状況によっても変わる
③要求収益率(期待リターン)は理論価格の推定に使える
また企業全体で見た要求収益率はWACCと呼ばれており、こちらも抑えていただきたいです。
-
WACC(加重平均資本コスト)とは?計算方法や具体例で解説!
WACC(加重平均資本コスト)とは WACC(Weightted Average Cost of Capital)は日本語で言うと加重平均資本コストのことです。 ただ実際に使うときにはW ...
続きを見る